2017年10月半ばに会社を辞め、世界一周の旅に出た写真家・ライターの佐田真人さん。楽しいはずの旅を続ける中で、次第に大きくなっていった不安や孤独。そんな負の感情と向き合う中で気づいたこととは?
旅に期限はつきもの。
限られた期間の中で移動を繰り返す、慌ただしい日々から抜け出すように、ベトナム・ホイアンにやってきた。
静かに流れる川を眺め、時折手を振りながら横切るボートに、こちらも手を振り返しシャッターを切る。
ここでタバコをふかしながら黄昏てると、かっこいいなあなんて思うのだけれど、タバコはてんで吸えないのが悲しい。
本当は「旅ってこんなに楽しいんだぞ!」と伝えたい。だけど実際は、毎日何かしらの不安や孤独を抱えながら、旅している。
一人旅なら誰もが通る道なのかもしれない。楽しいと思っていたはずのところに来ても、どこか心ここに在らずの冷めた自分がいた。
旅先で出会ったある人との会話を思い出す。
「君と話していると涙が出そうになる。君には夢がある。もしいま私がその夢を買えるなら何億円だって出すよ」
やや掠れた声で発せられたその言葉は、重く自分にのしかかってきた。その肝心な夢が自分にもわからないからだ。
彼はそれを感じとってか、最後にこう付け加えた。
「いま君が考えていること、それはきっと、後に大きな財産になる」と。
それからというもの、この旅で成し遂げたいことは何なのか考えるようになった。
「観光地を巡り、美味しいものを食べ、記録に残す。それが本当にしたい旅なんだっけ?」って。
いつの間にか夕日が沈み、各所で宴の始まる気配がした。
街の灯りが目に入る。なぜかそのとき、見慣れたはずの景色が、やけに新鮮に見えた。
街の真ん中を流れる川、その先に何やら楽しげな会話をする人たち。目に映るひとつひとつの景色が、まるで水彩絵の具を垂らしたかのように拡がっていった。
「殻に閉じこもっていないでさ、もっと目の前の景色を楽しみなよ」
誰かがそう言った気がした。もしかしたら僕は、見えないものを見ようとしすぎていたのかもしれない。
結局不安や悩みなんていうのは、放っておいても向こうからやってくるのだ。それならばいまをもっと生きよう、そう思った。
しばらくずれていたピントを、目の前の景色に合わせなおす。
はじめてホイアンという街を見た気がした。
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